キャスト×森平周監督特別対談
<2019.7.1更新>
2018年10月にスタートしたクラウドファンディングを経て、シンガーソングライター・Momによる楽曲提供や俳優・小手伸也の特別出演などで話題になった映画「色の街」。2019年6月23日・24日には早稲田小劇場どらま館にて同作の完成披露試写会も行われました。
本稿では、そんな同作を手がけた森平周監督とプロデューサー兼主演の黒澤優介(相田雅 役)、そして出演者である矢崎希菜(増田カナ 役)と安慶名晃規(加藤 役)に実施したインタビューの内容をお届けします。
■「色の街」はどのように出来上がったのか
左から森平監督、黒澤優介、矢崎希菜、安慶名晃規
――まずは本作の脚本を担当している森平監督にお伺いします。「2つの時代の青春を描く」という触れ込みの本作ですが、監督はどのような経緯でこのようなストーリーを構築しようと思ったのでしょうか。
森平監督:所属していた劇団の方針で青春モノの演劇に取り組む事が多かったことや、自分自身も青春モノが好きだったことから、これを映画でも表現したいと思ったためです。ただ、普通に青春を描くだけではつまらないので、色々やってみたかったアイデアは全て詰め込んでみよう、と思った結果、2つの時代を行き来する作品になりました。
――そんな同監督の執筆した脚本ですが、キャストの皆様は初めて読んだ時どんな印象を抱いたのでしょうか。
黒澤:最長30分の作品を撮る、という条件で脚本の執筆を依頼したので、あ、こういうふうにまとまるんだなぁと(笑)。作品の構造上、脚本だけでは作品全体の想像があまりつかなかったり、ラストシーンが自分にとってしっくりこなかったりということもあったんですが、実際の演技や完成した映像を見ると自分なりの理解を得られるようなストーリーだったと思います。
矢崎:私も読み合わせの時は全然話がわかりませんでした(笑)。ただ、読み合わせから撮影までの間に色々考える時間があったので、そこで作品の深みやテーマ、自分の役に対する理解を深められたと思っています。
安慶名:僕は、自分の役である加藤に対して共感できるポイントがとても多かったことが印象的でしたね。もちろん、作品に対する想いもあるんですが、この共感から何だか変な使命感が生まれてきてしまって…(笑)。なので、加藤役が自分で良かったと思いましたし、加藤にも自分が演者で良かった、と思ってもらえるような演技をしたいと思うようになりましたね。
――では、それぞれの撮影現場で印象に残っているエピソードを教えてください。まずは安慶名さんからお願いします。
安慶名:やっぱり小手伸也さんが登場したシーンですね。加藤と関係の深い役どころなこともあり、共演させて頂いたことで得られたものはとても大きかったですし、撮影全体に与えた影響も非常に大きかったと思います。こと演技においては、お客さんに影響を与えることと同じくらい役者自身で影響を与え合うことが大事だと思っているので、そういう点でも多くの学びが得られたと感じています。
森平監督:自分も、小手さんは本当に“やり切る”役者だな、と感じましたね。出番の多い役ではなかったんですが、それでも思いっきり演じてくださったことが大変印象的でした。
黒澤:学生制作の映画だから、ということも関係なく自分の役を演じ切ってくださって、自分ももっと頑張らなきゃ…と思いました。
――お三方の印象に残っているエピソードは如何でしょう。
森平監督:些細なことなんですが、撮影してるとこどもたちから「YouTuberだ!」と言われて(笑)。今の時代、撮影ってそういう風に映るんだなあ…と時代を感じました。
矢崎:本当に細かい(笑)。私は黒澤さんが劇中で披露した一発ギャグが本当に印象的でした。撮影中何回も何回もやってるから、本当に心が強いなぁって…。
黒澤:馬鹿にしてない!?(笑)
矢崎:そういうところがいいな、って思いましたよ(笑)。
――なるほど(笑)。黒澤さんは如何でしょう。
黒澤:今回の撮影はロケが多く、現場が押してしまいがちだったのが非常に大変でした。寒かったりピンマイクが使えなかったりで苦心したことも多々あり、特にアメフラシ(人工的に雨のシーンを再現する)場面ではかなり苦労しました。また、冒頭の運転シーンではカットごとに何回も道を往復して撮影していたんですが、西日の加減がおかしくて追撮になってしまって…。結局8往復くらいしましたね。
――Momさん手がける主題歌「プライベートビーチソング」と挿入歌「フリークストーキョー」について、初めて聞いた時の感想や印象を教えてください。
森平監督:僕は「フリークストーキョー」が本当に映画本編とマッチしているな、と感じると同時に、歌詞や雰囲気から加藤の存在を強く感じました。
安慶名:自分は最初に聞いたのが夏らしい暑さになってきた日の夜だったので、青春の思い出がフラッシュバックしてしまって…疲れていたのもあるんでしょうけど、泣けてくる気持ちになってしまいました。本当に素敵な曲を提供してもらえたと思っています。
黒澤:僕は「プライベートビーチソング」を初めて聞いた時に、ストレートに「凄い良い曲だな」と思いましたね。実際、この曲を流すことで「色の街」のラストシーンはより締まったものになったので、Momさんに感謝したいです。
矢崎:独特なテンポやリズムなのにスッと入ってくる、それでいて耳に残る曲ですよね。私も、映画と非常にマッチしている曲だと感じました。
■演技、演出、表現…それぞれが抱く作品へのこだわりとは
――矢崎さんにお伺いします。矢崎さんは喋らなくなった女子高生・増田カナ役ということで、言葉を発さない、音の伴わない演技が多く見受けられました。彼女という人間を表現するにあたり、こだわった点や、逆に難儀した点などを教えてください。
矢崎:カナは自分とはかなりかけ離れた人物だったので、なるべく彼女との共通点を探しました。彼女はどちらかと言えば1人になりたいタイプで、私もたまにそういう気持ちになることがあるので、そういった接点を通して彼女を理解する努力をしましたね。
――では続いて黒澤さんにお伺いします。黒澤さん演じる大学生・相田雅はそんな増田カナを笑わせようとする人物とのことで、演技の際には台本にないアドリブや一発ギャグに挑戦したとお伺いしました。これはどのような発想・考えでトライしたものなのか教えてください。
黒澤:何も考えてなかったです(笑)。台本には(相田、一発ギャグ)としか書いておらず、極限まで追い込まれた状況での演技だったので、頭に思い浮かんだことをそのままアウトプットしたらああなりました。
森平監督:脚本を書いた側としては、演劇でああいったギャグをよくやる都合上、黒澤がどういうことを言うかはだいたいわかっていたので、その上で彼に任せた、という感じですね。
――つまり、監督の信頼の上で成り立っていたアドリブだったというわけですか?
森平監督:そうですね、信頼です(笑)。
――なるほど(笑)。そういえば、先程矢崎さんは黒澤さん演じる相田の一発ギャグが印象に残っている、という仰っていましたが、どのギャグが一番面白かったか教えてもらえますか?
矢崎:これといってないです(笑)。
黒澤:全部面白かったからだよね?(笑)
――ちなみに、黒澤さんにとって一番自信のあった一発ギャグはどのギャグでしたか?
黒澤:すごい質問ですね(笑)。難しいですが…劇中にも登場する時報のギャグ…ですかね、やっぱり。
森平監督:最初のテイクで撮ったギャグが時報のやつだったんですけど、それ以降に撮ったギャグは現場のウケがそんなに良くなくて…最終的に時報に戻しました。実際どんなギャグなのかは、上映してからのお楽しみということで(笑)。
――ありがとうございます。そんな黒澤さん演じる相田ですが、彼は劇中唯一大学・高校の両時代が描かれるキャラクターでした。それぞれの演じ分けが大変だったのではないかと思いますが、具体的にどのような点を意識して演技したのか教えてください。
黒澤:自分は高校時代、相田とそっくりな高校生活を送っていたので、その点ではあまり苦労しませんでしたね。ただ、大人になり切れない少年を演じるにあたって、当時の後悔や出会いについて考えながら演技する、という意識はしていました。大学時代を演じるにあたっては「如何に大学生らしくするか」という点に注力していたため、普段吸わないタバコの吸い方を練習したり、加藤に対してあえて兄貴風をぶんぶん吹かせるようにしたりするようにしていました。
――なるほど。続いて安慶名さんにお聞きしますが、安慶名さん演じる高校生・加藤はやさぐれた家出少年ということで、劇中でもタバコを吸うシーンや着崩した学ランが大変印象的でした。彼のような荒んだ若者を演じるにあたり、何か意識したことや注力したことはありますか。
安慶名:加藤って、いわゆる尾崎豊を聞いたり、ヒップホップに傾倒したりする不良ではなく、もっと曖昧な領域にいる若者なんですよね。なので、彼のどっちつかずさというか、振り切れない悩みのような点に着目していました。その曖昧さや弱さは演じる上で意識していたポイントだと思います。
――先ほど、安慶名さんは加藤に対して共感出来るポイントが多い、と仰っていましたが、逆に安慶名さんと加藤の間で決定的に違う点などはあったのでしょうか。
安慶名:先に述べた通り、彼は曖昧な立ち位置で揺れ動いている人間なんですけど、自分はむしろ尾崎豊的というか、人間的に吹っ切れてしまっているので、そこは大きな違いなのではないかと思います。
――だからこそ、その違いが演じる上で重要な点だったというわけですね。それでは続いて森平監督にお聞きします。本作では先述の通り、「2つの青春」として相田の大学時代・高校時代が交互に描かれており、それぞれの時代では画面の彩度や明度が大きく異なっていました。この演出の意図について教えてください。
森平監督:映画を撮ろう、となった時期に車を運転しながら外の景色を見ることがあって、その時に「日本って、色味が薄いな」と思ったんですよね。でもその時、「昔はそう思ってたっけ?」という疑問も同時に抱いたんです。そこに脚本の着想を重ね、今作のテーマである「ありのまま」を映し出すため、「見えている世界がだんだん違うものになっていく」という効果を意図して演出しました。
――森平監督の舞台作品「少年は、胸が高鳴って死ぬ」では、主演をひたすら走らせるなどの個性的な演出が見受けられましたが、本作では奇抜さよりシンプルな画の力強さやエモーションを意識した場面が多かったように感じられました。この理由を教えてください。
森平監督:単純に、演劇と映像では見せ方が違った、という理由がありますね。演劇は目の前で演じる都合上、奇抜なことをしても観続けてもらえるんですけど、映像は途中で鑑賞を中止しやすい媒体なので、半ば強制的に観せるような状態になってしまうんです。あとは、やっぱりそういった奇抜なシーンは演劇としてお客さんの目の前でやるからこそ意味があると思っていて、映画ではカメラという武器をより活かした表現がしたかった、という考えがあったのも理由として挙げられますね。
――ありがとうございます。そんな「色の街」ですが、皆さんにとって本作はどのような方々に見てもらいたい作品ですか?
森平監督:僕の中のテーマが「ありのまま」なので、年代問わず自分の「ありのまま」に関する悩みを抱えている人に見てもらいたいですね。
安慶名:僕は加藤と同じように、自分のことを思春期の悩みを抱えたまま大人になった人間だと思っているので、そういった悩みを抱えている人や、或いはその悩みにまだ気づけていない人に見てほしいですね。この作品はそういった悩みについて考える切っ掛けになり得る映画だと思います。
矢崎:今学生の方は勿論なんですけど、もう大人になってしまった人が昔の青春や悩みを思い出すために見てほしいですね。
黒澤:自分は逆に、今学生である人にこそ見てほしいですね。今の自分たちみたいにある程度大人になると鈍くなってしまうんですけど、そういう世代の人たちはアイデンティティや自分らしさ、他人の気持ちを一番考える時期だと思うので、そういった悩みについて考える機会になればと思います。勿論、矢崎さんの言うように、大人が青春の悩みを思い出すきっかけとなる作品になればいいな、とも思っています。
――では最後に、監督とプロデューサーのお二人から、これから映画を観る方々へメッセージをお願いします。
森平監督:30分の中に色々な登場人物が登場していて、その中に誰か1人に引っかかる部分があれば得るもののある映画だと思うので、そういった目線で見て頂けるとありがたいです。
黒澤:舞台だと敷居が高そうでなかなか足を運びづらいとは思いますが、映画ならより鑑賞しやすいと思うので、ぜひ映画館の大きなスクリーンで観て頂きたいですね。
――ありがとうございました!
■森平周(もりひら・しゅう)
早稲田大学文化構想学部4年。大学では作家・重松清氏より文芸創作指導を受けている。劇団てあとろ50’出身。劇団では主に脚本・演出を担当。これまでの作・演出作品として「ボンクラたちの坂道」(2017)、「少年は、胸が高鳴って死ぬ」(2018)などがある。
■黒澤優介(くろさわ・ゆうすけ)
法政大学文学部4年。たむらプロ所属。大学では作家・中沢けい氏より文芸創作指導を受けている。劇団てあとろ50’出身。劇団では主宰として公演の企画を手掛ける。現在、NHK2020短編映画「七転び八起きのピースサイン」に出演中のほか、これまでTBS「チア☆ダン」、フジテレビ「隣の家族は青く見える」などに出演。
■矢崎希菜(やざき・きな)
サンズエンタテインメント所属。これまで「アクエリアス」「丸美屋」「クロネコヤマト」など広告10社への出演実績を持つ。映画「神の発明。悪魔の発明。」(2019)では主演を務める。現在、藍井エイル「グローアップ」MV、CM「徳島たびプラス」に出演中。
■安慶名晃規(あげな・こうき)
フリーの俳優として活動中。映画「階段下は××する場所である」(2019)では主演を務めるほか、映画「UNIFORM」、フジテレビ「ラブホの上野さん2」、ソフトバンク「ウタコク電車篇」などに出演。現在、NHK「パプリカ」に出演中。
(文:吉河卓人 写真:塩見那月/※本情報は2019年7月1日時点のものです)